20221018-19

【春日の50の物語、収録編】

作曲家・野村誠さんの、夏のワークショップを元にしたピアノ作品50曲、秋になったので収録日がやってきた。野村さんのご提案で、演奏だけでなくレクチャーを入れるため二日間設定し、9時間にも及ぶ撮影となった。特にレクチャーの熱量がなんともすばらしい。番組のような構成で一曲につきお話いただき、計50本の動画となった。撮影中は、聴き手がいた方がいいからということで、わたくしはカメラに映んないように・でも野村さんの目線が下がんないようにホールの座席三列目あたりに存在し続けていた。大好きな作曲家の音楽と感受性を浴びるというか浸かるともいうべきか、すごい時間だった。

子どもたちが弾くことも想定した、一曲1分に満たないほどの小さな曲集は、なんとひとつひとつに副題があり、それぞれ別々の練習のためのテーマが設けられている。いろいろ連想を広げ戻ったり遊んだりしながら解説する野村さんの姿を拝見していると、音楽家としての姿勢や生き方、信念や情熱がひしひしと伝わる。それを間近で見る体験は、驚きとかひらめき、ピンとくることとか、自分の中に眠っている生き物を、探し、見つけ、とんとんと叩いて起こしていく感じに近い。ピアニストだけでなく、演奏家、もっと言えば演奏しなくても音楽に携わるひとなら誰しもハッとするのではと思う。

自身にも覚えがあるけれど、ピアノのお稽古は手本があって間違えないよう練習する人が多いんじゃないだろうか。もちろんそれも必要な活動だけれど、それに固執し終始していては、やっぱり音楽の自由な世界には辿り着かないかもしれない。弱奏のエチュードのときに「僕は弱く弾くのが好き」と言って「どんな風に弾いたら一番小さい音が出るかな」といろんなところからピアノを弾いていた野村さん。
どの曲の解説も、野村さんは、難しくなくてみんなのすぐそばにあるんだと、自由への窓を開け続けていた。

熱くてハイテンション、でもなんだか北斎漫画みたいでゆるゆる、笑いをこらえるのに必死な楽しい時間だった。誰よりも真っ先に聴けて宝物のような仕事だ。
映像も楽譜のことも、まだまだやることいっぱいだけど、早くお届けできるように、元気いっぱいに今年を駆け抜けたい。

昨年、日田に野村さんをお招きする企画を書いた際のラフ。

日田は林業の街で、ホールも木製なので「木」が題材にならないかと当時考えていた。野村さんの企画には、淡路島の瓦を題材にした「瓦の音楽」というプロジェクトがある。アイデアをお借りできないかとCDに入っていた企画担当の方のお電話番号に問い合わせたら、「野村さんが気になったときにすぐパスを出せるよう、地域の人と連携をとるのがとても大切です。図鑑のような人であるといいですよ」とアドバイスをいただいたことがとても印象的で、この図を書き留めた。

図を書いてから1年以上経ったこの二日間は、居場所が変わっても初心忘るるべからずと、天から声をもらったような契機でもあった。