カリンバをさわる
カリンバというのは親指ピアノである。金属の棒を叩いてのばした細長い板を親指ではじいて音を出す楽器だ。やわらかい雨降りの中で光が差しているような、濡れていて暖かい音がする。あまり考え事をせずにカリンバを弾いていると、食堂のお父さんがそっと小さな声で「うちの楽器と遊んでくれるひとはうれしいねえ」と喋る。
カリンバをさわる
爪で弾くことをしなければ、あまりに静かなので、聴かせるための音楽ではなく、自分だけがカリンバと対話しているような気持ちになる。そばに誰かがいるとか、そういったことがどんどん遠く離れてゆくような気がする。ふいに、畑仕事の合間、畔に座り込み小さな帳面を取り出し俳句を詠む祖母が「これは自分の『なぐさみ』なのだ」と言っていたことを思い出した。
それは今でいうところの「癒し」なんだろうか。しかし、なんと実直で飾り気のない美しいことばだろう。きっとこれも、遠い大陸のだれかのなぐさみだったんだ。いとおしき手元の雨音を聴く。